「更年期」と聞くと女性のものと思われがちですが、男性にも更年期があります。医学的にはLOH症候群(加齢男性性腺機能低下症候群)と呼ばれ、加齢に伴うテストステロンの低下によって、心と体に幅広い不調が現れます。女性の閉経と違って「いつ始まったか」がはっきりせず、本人も周囲も気づかないまま放置されやすいのが特徴です。本記事では、その見分け方と治療の流れを整理します。
LOH症候群とは何か
LOHは「Late-Onset Hypogonadism」の略で、日本語では加齢男性性腺機能低下症候群と訳します。精巣で作られるテストステロンが、加齢や生活習慣によって基準値を下回り、性機能・身体機能・精神状態に症状が出る状態を指します。
女性の更年期が50歳前後の数年間に集中するのに対し、男性のLOHは40代から70代まで、人によって発症時期も進み方も大きく異なるのが大きな違いです。だからこそ「年のせい」「働きすぎ」で片づけられ、見逃されやすいのです。
気づきにくい3つの症状群
LOHの症状は大きく3つに分かれます。1つの分野だけでなく、複数が同時に重なって出るのが典型です。
1. 性機能の症状
- 性欲(リビドー)の低下
- 勃起力の低下・ED
- 朝勃ちの消失・減少
- 射精時の快感の低下
2. 身体の症状
- 慢性的な疲労感・だるさ
- 筋力・筋肉量の低下
- 内臓脂肪の増加・お腹周りの肥満
- 発汗・ほてり(ホットフラッシュ)
- 関節や筋肉の痛み
3. 精神・心理の症状
- 意欲・やる気が湧かない
- 抑うつ気分・気分の落ち込み
- イライラ・怒りっぽさ
- 集中力・記憶力の低下
- 寝つきが悪い・夜中に目が覚める
うつ病と間違われやすい落とし穴
LOHの厄介なところは、精神症状が前面に出るとうつ病と区別がつきにくい点です。実際、抑うつ気分・意欲低下・不眠を訴えて心療内科を受診し、抗うつ薬を処方されても改善しないケースがあります。
見分けのヒントになるのは、「気分の落ち込みと同時に、性欲低下・朝勃ちの消失・筋力低下といった身体面の変化が並行して進んでいるか」です。心の不調と体の不調がセットで来ているなら、一度テストステロン値を測る価値があります。抗うつ薬で一向によくならない中高年男性こそ、LOHを疑う余地があるのです。
セルフチェック(AMSスコアの考え方)
医療現場ではAMS(Aging Males' Symptoms)スコアという17項目の問診票が使われます。家庭でも、次のような項目に当てはまる数が多いほど注意が必要です。
- 総合的に調子が悪いと感じる
- 関節や筋肉に痛みがある
- ひどく汗をかくようになった
- 睡眠の質が落ちた
- よく眠くなる、しばしば疲れを感じる
- イライラする・神経質になった
- 不安感がある
- 体力が衰え、活動が億劫になった
- 筋力の低下を感じる
- 憂うつな気分だ
- 「絶頂期は過ぎた」と感じる
- 力尽きた、どん底だと感じる
- ひげの伸びが遅くなった
- 性的能力の衰えを感じる
- 早朝勃起の回数が減った
- 性欲が低下した
これらが複数当てはまり、しかも数ヶ月以上続いているなら、自己判断で済ませず受診を検討してください。あくまで目安であり、確定診断には血液検査が必要です。
検査と診断の流れ
1. 血液検査
診断の柱は遊離テストステロン(フリーテストステロン)の測定です。テストステロンは朝に高く夕方に下がる日内変動があるため、採血は午前中(おおむね7〜11時)に行うのが原則です。総テストステロンだけでなく遊離テストステロンを測ることで、より正確に判断できます。
2. 問診・症状評価
前述のAMSスコアなどで症状の重さを評価します。検査値と症状の両方を見て、総合的に診断します。
3. 除外診断
甲状腺機能・血糖・うつ病・睡眠時無呼吸など、似た症状を起こす他の病気がないかも確認します。LOHと決めつけず、他の原因をきちんと除外することが大切です。
治療の選択肢
1. 生活習慣の改善(土台)
どの治療を選ぶにしても、まず生活習慣が基盤になります。
- 質の良い睡眠(テストステロンは睡眠中に分泌される)
- 下半身を中心とした筋力トレーニング
- 亜鉛・ビタミンD・良質なタンパク質を含む食事
- 内臓脂肪を減らす体重管理
- 慢性ストレスの軽減
2. テストステロン補充療法(TRT)
症状が重く検査値も低い場合は、TRT(テストステロン補充療法)が選択肢になります。日本では注射が中心で、2〜4週ごとにテストステロン製剤を筋肉注射する方法が一般的です。塗り薬タイプを使う場合もあります。
注意点として、TRTは前立腺がんの方には禁忌で、開始前にPSA(前立腺の腫瘍マーカー)検査が必要です。また将来子どもを望む方は、TRTが精子形成を抑える可能性があるため、医師と十分に相談する必要があります。多血症など副作用の管理のため、開始後も定期的な血液検査が欠かせません。
3. 漢方・補助療法
症状が軽い場合や、TRTに抵抗がある場合には、補中益気湯などの漢方薬が用いられることもあります。効果には個人差があり、医師の判断のもとで使います。
受診のタイミング
- 性欲・勃起力の低下が3ヶ月以上続いている
- 気分の落ち込みと体の不調が同時に進んでいる
- 抗うつ薬を飲んでも改善が乏しい
- 原因不明の疲労感・筋力低下が続く
- セルフチェック項目が複数当てはまる
受診先としては、男性更年期外来・メンズヘルスクリニック・泌尿器科が適しています。心の症状が強いと心療内科に流れがちですが、性機能や身体の症状を伴うなら、まずテストステロンを測れる科を選ぶのが近道です。
LOH症候群やテストステロンに関する医学情報は日本泌尿器科学会のサイトでも確認できます。